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なのは PS 第2話 (2)

 部屋に飛び込んで、シャマルはすぐに事情を察した。服をはだけさせて左肩を押さえているシグナムに駆け寄る。止血をしている手ぬぐいは赤く染まっており、それはヴィータのいる背中方でも同様だった。当てた布を外して傷口を確認し、すぐさま癒しの法術をかける。
「大丈夫、これならすぐに治るわ。でも――貴女にこんな傷を負わせるなんて……」
「すまん、不覚をとった」
 動揺するシャマルに、シグナムは短く謝罪の言葉を述べた。彼女が謝る必要などどこにもないのだが、そうせずにはいられない生真面目さが彼女らしいとも思う。ザフィーラの方を向くと、彼は窓際に目を向けながら口を開いた。
「蒐集中に唐突に現れた騎士が、予想以上の手だれだった。蒼の騎士甲冑に、カートリッジ搭載型のアームドデバイス。一見なので確証はないが、我々と同ランクか、あるいはそれ以上かもしれん」
「けっ、ぶったおしに行ってたら、あたしたちがやられるわけねーよ。らしくもなく背中見せるからこんなことになるんだ」
「言うな、ヴィータ。主クラウスを思ってこそだ」
「へーへー」
 たしなめるシグナムの声に、幼い少女は不満の表情を見せながらもあっさりと引き下がる。リーダーの容態がはっきりして安心したのか、ベッドに腰をかけ、退屈そうに足を交互に揺らせた。
「だが、ヴィータの言うことにも理はある。我々をかばったその傷は、私の責任だ。あの騎士が繰り出した矛先の延長上に我々がいなかったら、シグナムも一撃を避けられただろう」
「どうだろうな。確かに、あの距離で回避できないようでは、本来の距離で撃たれたら致命傷だろう。あれは恐らく中距離用の技だ」
 サポートが本職で、戦場に立った経験が多くないシャマルには、その蒼い甲冑の騎士の実力をはっきりとはイメージできない。しかしどんな経緯があったにせよ、シグナムに怪我を負わせたという事実は、十二分に警戒する理由になりえた。
「出来れば、その人と戦うのは避けた方がよさそうね。今のペースで十分だってクラウス様がおっしゃってるんだもの、無理をして大怪我をしたなんてことになったら、余計な心配をかけさせてしまうわ」
 傷をふさぎ終えた彼女は、血を拭き取りながら自分の意見を述べる。シグナムとザフィーラが頷き、ヴィータはそっぽを向いたが、異は唱えなかった。
「そうね――しばらくは私も蒐集に参加させて。奇襲されなければ私の能力は離脱に向いてるし、直接会って上手く魔力やデバイスの波長を記憶できれば、その後に遭遇しそうになってもいち早く察知できると思うから」
「それは構わんが、主クラウスはどうする。ここは外部からの侵略もないようだし、今のところは闇の書の侵食もないようだが……」
 守護騎士の将の言葉を予想していたシャマルは、目を細めて自分のリーダーを見つめる。
 沈黙の数秒が過ぎ去った後、シグナムはその視線の意味を理解して、声を震わせた。
「なっ、シャマル、お前まさか」
「ご名答、かしら?主様のことよろしくね」
「馬鹿な!私がその、主クラウスのことを、お世話、ではない、ああもう、そもそも前線に出るはずの私が何故」
「怪我は治したけれど、出血とか疲労とか、色々あるんだもの。少しくらい休養をとっても、罰は当たらないわよ。それに貴女、クラウス様と二人で話したこと、ほとんどないでしょう?」
 リーダーの台詞をさえぎった言葉に、彼女はぱくぱくと口を開閉しながら頬を朱に染めた。ヴィータは、対照的にきちんと声を出して文句を口にする。
「シグナムばっかりずりいぞ!誰かがクラウスのそばにいればいいって言うんなら、あたしだって問題ないじゃねーか!」
 シグナムの怪我のことがすっかり頭から抜けているらしい点はあえて言及せず、シャマルはヴィータの頭をなでた。
「じゃあ、みんなで交代にしましょうか。それならヴィータちゃんもクラウス様に会う時間が増えるんだし、いいでしょう?」
「ん、まあ、それならしゃーねーな……」
「ザフィーラも、お願いね?」
「了解した」
 獣姿の守護騎士は、背を向けたままで返事をする。シャマルが手当てを始めてから、彼は急に外ばかりに目を向けていた。彼女と同様の疑問を持ったのか、ヴィータはザフィーラの背中越しに窓をのぞく。
「……なあ、外に何かあるのか?」
「いや――もう治療は終わったのか?」
 控えめな彼の質問の意味に気付いて、シャマルは納得の声を漏らした。怪我の治癒は確かに終わっている。腕や胸に伝っていた血もほとんど拭き終わり、つまりシグナムの滑らかな白い肌は、かなりの面積があらわになっていた。当の本人は特に気にするでもなく、身体の前面を拭きながら口を開く。
「ああ、もう大丈夫だ。ザフィーラ、気を遣わなくてもいいぞ。私は女である前に守護騎士であるつもりだ」
「――あ、クラウス様」
 彼女がこれ見よがしに声をあげると、シグナムは反射的に腕で胸を隠そうとした。すぐに冗談だと気付いたシグナムは、全身を赤らめてシャマルをにらむ。吹き出しそうになる自分をこらえるのに精一杯で、リーダーの狼狽ぶりをきちんと堪能できなかったのが残念だった。
「……」
 ザフィーラはなおも窓と向かい合ったままでいる。尻尾と耳がうなだれているように、シャマルには見えた。

    *

 アルベンハイムの屋敷から東に十キロメートルほど。ベルンハルト・アルベンハイムは、城の庭を付き人なしで歩いていた。自身が優秀な騎士であるということもあるが、彼は一人で行動するのが好きだった。
 もちろん、地位が上がればそれだけ見栄が必要になることは理解している。だから彼は人の目のあるところでは、それなりに贅沢をし、人を使っており、それを楽しんでもいた。しかし、少なくともこれから会う相手には、そんな領主らしさを見せる必要はない。
 見渡しの良い場所で広い庭をぐるりと見渡すと、木陰に座り込んでいる少女が見える。近づくと、彼女は顔をあげて、微笑みながら手を振った。
「ごきげんよう、お兄様。お久しぶりです」
「ああ。元気そうだな」
 シーツを広げて座っていたその女性は、軽やかに立ち上がって礼をする。はちみつ色の滑らかな髪がふわりと広がった。
「しかし相変わらずだな、アルマ。お前が言えば、テーブルなり日除けなり、いくらでも用意してくれるだろうに」
 庭の隅でくつろいでいた妹に、ベルンハルトは呆れたように口を斜めにする。彼女は、可憐で淑やかそうな外見とは裏腹に、野山を駆けるのが好きな少女だった。成長した今もその気質はあまり変わっていないようで、ドレス姿で城内を駆け回ったりしてはいないかと時折心配になる。
 アルマは、小さく口を尖らせて不満の意を示した。クラウスよりも年上の彼女は、童顔のせいで弟と同い年か、ともするとそれよりも幼く見える。もっともそれは、ベルンハルトやクラウスなど、家族の前でだけ見せる、無邪気な表情のせいかもしれない。
「お兄様は分かっていません。人も自然から生まれ出たもの。同じ外にいるにせよ、土に足をつけて木に手を触れ、葉の揺らめきに風を感じてこそ、真に安らげるというものです」
 妹のもっともらしい台詞に、ベルンハルトは苦笑して両手を挙げた。
「全く、日に日にたくましくなる。兄としては複雑だ」
「そうですよ。私はもう大人ですもの。お兄様の教えを守って、日々精進しているのです」
 強くあれ、と言ったのは、確かにベルンハルトだ。妹たちが成人する前に両親を失ったアルベンハイム家は、英才教育を受けていた(そして才能も野心もあった)ベルンハルトによって傾くことなく領主という立場を保っている。仮に彼が倒れたとしたら、今の状態を維持するのは難しいだろう。
 この世界は弱肉強食。いつ何時、どこで誰に狙われるかも分からない。
 そしてそれは、例え相手が家族であっても、例外ではない。
 彼の父は、いつでもそうやって彼に教えてきた。だから、今度は長兄である自分の番だ。
 一刻も早く一人立ちできるようにという、兄なりの気配りだった。
「ご安心なさってくださいな。私、もっと立派になって、お兄様も、クラウスも守って差し上げ――」
 アルマは言葉を途切らせ、城を見る。同時に同じ方向に移したベルンハルトの視界に、一人の騎士の姿が見えた。
「失礼いたします!アルマ様、休養中申し訳――」
「ええ、大丈夫。すぐに行きます」
 内容を察しているのか、話をろくに聞かずに騎士を下げさせた彼女は、整った眉を八の字にして兄を見上げた。
「とても残念です。せっかく来てくださったのに」
「かまわん。また来る」
「そうそう、最後に一つだけ。クラウスは元気ですか?」
 幼い頃から弟を可愛がっていた妹は、今もクラウスのことを気にかけている。ベルンハルトが頷いてみせると、彼女は安心したように微笑んだ。
 優雅に膝を曲げてお辞儀をするアルマに挨拶を返して、同時に背中を向ける。
 歩き始めたときには、まだ城に入ってもいないであろう妹のことを忘れ、幾多の政を頭の中でめぐらせていた。


次回予告

 シグナムの奴、クラウスと何をしてるかと思ったら……舞踏会だって?んー、まあいいや。あたしそーいうのあんま興味ないし。どーせなら一緒に遊ぶ方が楽しいしな。主のお守り、頼むぜリーダー?
 それより、こっちはあいつをどうにかしなきゃな。あー、めんどくせぇ。
 魔法少女なのはPS 第3話 紅 蒼 翠
 あたしもちゃんと活躍するから、読んでくれよなっ。


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なのは PS 第3話 (1)

 シグナムの後ろで、扉の閉まる重い音が響く。目の前の豪奢な建物を見上げて、彼女は小さくため息をついた。アルベンハイム家のそれよりもさらに大きな空間を、彼女の感覚で示すなら、過度。鮮やかな色が、きらびやかな輝きが、彼女の目に痛い。
 自分の服装を見下ろして、また吐息が漏れる。彼女の髪に合わせた赤と桜色のドレスは確かに美しいが、自分の身の丈にはあっていないような気がして、どうにも居心地が悪かった。
「元気がないね、シグナム。やっぱり、こういったところは苦手?」
 彼女の主は、隣でそっとささやく。彼の服装も普段よりずっと豪華で、いかにも貴族といった風情だ。
「……よく、分かりません。経験自体があまりないもので」
「そっか。うん、実は僕も得意じゃない」
 クラウスは、そう言って苦笑する。人懐っこい笑顔は、着飾っていてもやはり彼のままだった。

第3話 紅 蒼 翠

 舞踏会に参加する。
 クラウスの部屋に入ってきた彼の兄は、開口一番そう言った。
 領主同士の付き合い、というものだろう。権力というものは、コネクションなしには発生しない。パーティという名目の元、根回しや謀略が行われるのも珍しいことではない。
(まあ、主クラウスには関係のないことか――)
 主人の隣で人事のように聞いていたシグナムは、ベルンハルトの次の台詞を理解するのに、数秒を要した。
「何なら、シグナム嬢もついてくるか?衣服が必要であれば、用意させる」
 自身が硬直しているらしいということに気付いたのは、クラウスの困ったような声に我に返ってからだった。
「ええと、今回は、僕はみんなと留守番ってことにしたいんだけど……駄目かな?」
「駄目だ」
 弟の質問に、にべもなく返事をする兄。「だろうね」と両手を挙げ、クラウスはシグナムに目を向ける。
「シグナムはゆっくりしているといいよ。疲れてるだろう?」
「いえ。是非お供させてください」
 自分は主の護衛のためにとどまっているのだ。彼が外出するというのに、のうのうと休んでいられようか。凛とした表情で答えると、クラウスは一瞬迷いの表情を見せた後、頷いた。
 そこから、屋敷内の女性に着せ替え人形にさせられたり、普段の五十倍の時間をかけて髪を結わえられたりと、彼女にとってはある種拷問のような時間が続いた後、現在に至る。
 会場までたどり着き、その片隅でクラウスと二人になったところで、幾度目かのため息をついた。もっともそれは、本来の自分の任務に思考を戻せるという、安堵から出たものだったが。
(それにしても――土地によって随分と違いがあるな。今更だが)
 紳士淑女の集まりを目に映しながら、彼女は道中の光景を思い返す。屋敷近辺の土地は丁寧に手入れがされており、道も整っていた。一方で、別の領主が治めている土地の境目などは、荒廃して作物ができるような場所ではなかった。
 そのギャップはどこからくるのか――考え出すと、あまりいい解答は出てこない。気分が悪くなりそうで、シグナムは額を押さえた。
「はい、シグナム」
 目の前に差し出される、赤紫のグラス。驚いて顔を挙げた先には、優しげな紅の瞳。
「お酒はあまり好きじゃないかなと思って、ジュースにしてみた。ここの葡萄はなかなかだよ」
「も、申し訳ありません」
「女性をもてなすのが男の甲斐性だよ、フロイライン」
 慌てて頭を下げるシグナムに、クラウスはおどけたように答えた。恐縮しながらグラスを受け取ると、花のような芳香が鼻をくすぐる。口に含むと、程よい甘味と酸味が広がった。
「――ありがとうございます。美味しいです、とても」
 遅ればせながら礼を述べた彼女に、少年はにっこりと微笑む。
「主クラウスは、こういった場所にはよく来られるのですか?」
「まあ、それなりには。今回みたいに、兄さんに連れてこられるのがほとんどだけど」
 彼の視線の先では、兄が輪の中心になって談笑している。クラウスは自分のグラスに口をつけてから、誇らしげな口調で言った。
「本当にすごいんだ、兄さんは。昔から、自分の道をきちんと決めて、いつでもその先を見てる。僕の将来まで、こうやって気にかけてくれるしね」
「貴方の目標、ですか」
「理想、かな」
 主の言葉にどう返していいのか分からなくて、シグナムは赤紫の液体を口にした。
 若くから領主を務める才能と人徳。憧れるのももっともだと思う。
 しかし、クラウスには別の美点があることも、彼女は知っている。
「私は――貴方が主でよかったと思っています」
 迷った末に口をついた言葉は、彼女の意図どおりに主に伝わっただろうか。
「うん……ありがとう、シグナム」
 はにかむように笑ったクラウスに、気恥ずかしくなって顔が熱くなる。口を隠すように、シグナムが唇にグラスを近づけたところで、拍手が会場の奥から沸きあがった。
「領主殿のおでまし、ですか」
「うん、そうみたいだね」
 姿を見せたのは、屋敷の雰囲気と同じ、きらびやかな服を着た中年の男。恰幅が良い、と言えば聞こえはいいだろうか。聞こえ悪く言うのははばかられるので、シグナムは考えないことにする。彼女とクラウスはベルンハルトと合流して、このパーティのホストに挨拶をした。後ろに控えて、二言三言話すだけだったので、大したことはない。しかし、対面するまでの先入観のせいか、あまり良い印象をその領主に持つことは出来なかった。
 そして、その嫌悪感は、すぐに彼女にとって決定的なものとなる。
 宴もそれなりに盛り上がり、アルコールが参加者の体に染みた所で、隅で主人と共にたたずんでいたシグナムは、例の領主がこちらに歩いてくるのを見た。
「おや、アルベンハイムのお二人は、あまり楽しんでおられていないようだ。今日の酒は口に合わないかね?」
「いえ。大変美味しくいただいています。私もシグナムも、酒の精にすぐに酔ってしまうゆえ、あまりお恥ずかしいところを見せぬよう、控えているのです」
「なに、酔うのは大いに結構!羽目をはずしてこそ、酒宴というものだよ」
 クラウスのそつのない返事に、領主は喉の奥まで見えそうなほど口を開いて笑う。それから、にやけたままシグナムの全身を眺め回した。
「それに、普段と違うものが見れるのも酒の良いところだ。清楚なシグナム嬢の乱れるところなど、わしは是非見てみたい」
 近づいた彼の口から、強いアルコールの臭いがただよってくる。相当酔っているのだろう、さらに顔を近づけ、犬が食べ物にするかのように鼻をひくつかせた。
「陶磁のような肌、花も色あせる香り。貴女は実に美しい」
 肩に触れるその手に、彼女は全く抵抗しようとはしなかった。愛想笑いも浮かべない代わりに、眉一つも動かさない。気分のいいものでないことは確かだが、彼女にしてみれば些細なことだ。下手に粗相をして主に迷惑をかける方が、比べ物にならないくらい心苦しい。
 シグナムの二の腕をなでていた手が、滑り降りて腰の辺りにまわる。その手を掴んだのは、彼女ではなく主だった。
「恐れ入ります。大切な友人を賞賛していただけるのは私としても大変喜ばしいのですが、他の方々も――きっと貴方のお話を待ち望んでいらっしゃいますよ」
「――ふん、ベルンハルト殿の腰巾着の小僧が何をぬかすか」
 目の前の女の眉が動いたことに気付かず、男はクラウスを半眼でにらむ。
「それにしても、お主は兄たちと似ておらぬのう。その血のような不気味な眼、アルマ殿の美しき翡翠の輝きとは全く別物。兄のような覇気があるでもなし――」
 本当に、お前はアルベンハイム家の息子なのか。
 その罵りの言葉が耳に届くのと、シグナムが自らの剣を呼び出そうと胸元の鎖に手をかけるのはほぼ同時であり、そしてクラウスの制止の手はそれよりも一瞬早かった。
「ええ、兄たちのようになれぬのは私の不徳の致すところ。申し訳の言葉もありません」
 満足そうに唇をゆがめ、なおも嗜虐心に満ちた目のまま口を開こうとする領主に、クラウスは頭を下げたまま言葉をつなげる。
「しかし、我が兄、姉を慕う心は、他の誰にも引けを取りません。仮に私が彼らの弟でなかったとして、本当の家族がアルベンハイムに刃を向けたとしても」
 頭を挙げ、覗いた紅の瞳が、男を射る。その強い光に、領主はのけぞり、そこに静かな声が追い討ちをかけた。
「私は迷わず、その者どもを斬りましょう」
「っ……ははっ、お主がか?ろくに剣を握ったこともなかろう。勇ましいのは結構だが、気持ちだけでは――」
「ならば、ご自分の身で試してみますか?」
 クラウスよりも一回り威圧的な声。決して大きくないにもかかわらず、その低い声は聞くものを緊張させる。ベルンハルトがいつの間にやらそばに来て、冷たい視線を領主に向けていた。
「我が弟は、魔力資質なら私をしのぐ才。性格ゆえ、あまりご披露する機会はありませんでしたが、お望みとあらばクラウスも喜んでその腕を振るいましょう」
「ぬ、そ、そうか。それはまた、アルベンハイム家も安泰で結構なことだ。しかしこんな場所で魔力を無駄使いすることもない。クラウス殿の言葉の通り、他の客人をもてなすことにするとしよう」
 クラウスの話が効いたのか、それともベルンハルトの視線が堪えたのか。男は挨拶もそこそこに、足早にシグナムたちのもとを立ち去った。
「……やれやれ、あの人の酒癖にも困ったものだ。すまない、シグナム嬢。不快な思いをさせた」
 頭を下げるベルンハルトに、シグナムは慌てて首を振る。
「いえ。私のことなどより、クラウス様のほうが」
「構わないよ。僕も、君に嫌な思いをさせたことの方が辛い。ごめん」
 クラウスは、眉をひそめてシグナムを見る。非難の的となった、ルビー色の瞳。聞いたことはないが、恐らく両親を含めて、家族のうち彼だけがその瞳なのだろう。言葉の棘で傷つけられてきたであろうことは想像に難くない。跡取りでもない境遇では、厄介者扱いされたこともあったかもしれない。
 だから、そんなにも、他人の――彼女のことで、心を痛めるのだろうか。人間ではない部下に、自分の境遇を重ねて。
(――それが、何だと言うのだ)
 シグナムは首を振って、思考を打ち消した。主が自分たちのことを気遣ってくれる。それだけで十分ではないか。理由を邪推すること自体が彼を傷つけるような気がして、彼女は自分を恥じた。
「帰るか。ここにいてもあまり居心地は良くないだろうし、私も用は済んだ」
 ベルンハルトの言葉にクラウスが頷いて、主はシグナムの手をとった。
「行こう、シグナム」
 暖かい手が、彼女を包む。柔らかなぬくもりが、彼女の鼓動を大きくし、同時に安心させる。
「先程はありがとうございました。主クラウスのお心遣い、感謝の言葉もありません」
 クラウスは、シグナムの言葉に視線を天井に向けて、少ししてから納得したように頷いた。
「それを言うなら、僕だって同じだよ。さっきシグナムが剣を抜こうとしたとき、僕のために怒ってくれてるんだって思ったら、すごく嬉しかった」
 紅の目が、優しく細まる。彼女は、その瞳を綺麗だと思った。
 彼女たちは車に乗って城を出る。
 その時。
 主の体が異様に熱く、汗ばんでいることに気付いて、シグナムはクラウスの肩を支えた。
「主クラウス、どうしました」
返事は、荒い息遣い。全力疾走した後のように空気をむさぼる彼は、シグナムの胸に倒れこみ、そのまま眠り込むように気絶した。

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なのは PS 第3話 (2)

「ヴィータ、とどめだ!」
 ザフィーラの声に呼応して、紅の甲冑が宙を舞う。はるか上空から急降下。狙いは、体長十メートルもあろうかという巨大な四つ足の魔獣。
 ガシャンというカートリッジの金属音と共に、彼女の槌、グラーフアイゼンがうなりをあげる。
 そのままぶつかろうかという勢いで魔獣に近づきながら、彼女は槌を振り降ろした。
「ぶっ潰れろぉっ!」
 雄叫びの直後、激突による衝撃が周囲を揺るがす。
 魔獣は鈍い音を立てて地面に崩れ落ちた。
「闇の書、蒐集」
 闇の書が、シャマルの声に反応してページを開き、怪しく光る。動けなくなった魔獣から出たリンカーコアは、その古き本に吸い取られた。
「シャマル、こいつが最後か」
「ええ。リンカーコアの蒐集対象は、もう周囲にはいないわ」
「なんだよ。あたしはまだまだいけるぜ」
 二人の会話に、ヴィータは槌を一振りして口をはさむ。シャマルが苦笑して、右手をゆっくりと持ち上げた。その白い指につけられたリングから、振り子が垂れ下がる。先端の石が複雑に動き出し、数秒もすると一定の軌道を描き始めた。
「そうね、ここからだとベルカの戦が一番マシかも。他はちょっと遠すぎるわ」
「難しいところだな」
 ザフィーラの呟きに、緑の甲冑のシャマルが金髪をゆらめかせて頷く。ヴィータは是も非も言わず、グラーフアイゼンを肩に担いだ。
 闇の書蒐集の対象は、人間に限らない。基本的には異世界の魔獣を相手にリンカーコアを集め、優秀な魔道士が集まる戦乱を察知したらそこに乗り込むのが今の彼女たちの蒐集スタイルだった。先日の蒼の騎士の件があるため、ベルカの戦は避けていたのだが、今回は離脱のためにシャマルがいる。集められるうちに集めておくにこしたことはないとヴィータは思った。
「現在の蒐集ページは?」
「392ページ。半分ちょっとというところね」
「うむ――もうすぐ完了ということであれば、蒼の騎士のリンカーコアで一気に完成させてしまうのも悪くないかと思ったのだが。まあいいだろう、その戦にまぎれて蒐集。奴が現れたら退却だ」
「あいよ。なんだか追いはぎみたいだけどな」
「そう言わないで、ヴィータちゃん」
「分かってんよ。相手から魔力をぶんどってるんだ、魔獣だろうが人間だろうが、あんまり変わんねーよな」
 鉄槌の騎士は腰に手を当ててため息をつく。彼女は邪魔だと判断したものには容赦がないが、強いものと戦いたいという格闘家としての欲求があるわけでも、まして相手を蹂躙することに悦びを感じるわけでもない。また、同じ年頃の子供のように無邪気に力を振るうには、戦闘を経験しすぎていた。
「それでも、あいつが望んでる。なら、叶えてやるのが騎士の務めってやつだ」
「そうだな。行こう」
 ヴォルケンリッターは互いに頷きあい、仮面を装着してその場から転移する。ものの数秒で戦場の上空に移った。
「あいつらでいいんだな?じゃ、もうひと暴れ――」
「待って」
 シャマルの制止の声の意味を、ヴィータは振り返って悟る。戦場の中から、こちらに向かう甲冑が見えた。
「向こうも、こちらを覚えているようだな」
「忘れっぽい人なら良かったんだけど、ね」
「んなわけあるかよ。シャマルじゃねーんだから」
 ううっ、と仮面の下で涙ぐむシャマルを無視して、ヴィータは愛用の槌を振り回した。
「お前らは蒐集しててくれよ。こいつの相手はあたしがする」
「いや、離脱した方が良いだろう」
「やだね。ここで尻尾を巻いて、なめられるのはごめんだ。それに、この前の礼をしないと気が済まねー」
 そのやり取りに、シャマルがくすりと笑う。ザフィーラは軽く息を吐いたが、それ以上の反論はしなかった。
「二分で終わらせるから、それまで持ちこたえろ。無茶だけはするなよ」
「おう。さっさと行ってこい」
 黒と緑の甲冑が、戦場に降り立とうと高度を下げる。それを追いかけようとした蒼の甲冑に、二つの鉄球が飛来した。
 甲冑と同じ蒼の柄を持つ双剣がきらめき、騎士は向かい来る鉄球に切りつける。
 数瞬の抵抗の後、鉄球は二個とも両断され、空中に四散した。
「やろう……」
 ヴィータはうめきながら、指先に鉄球を召還する。第二射を放つ前に、蒼の騎士は一気に鉄槌の騎士に肉薄した。
 左手の剣をかわし、右手の剣をはじく。返しの一閃にハンマーを合わせると、激しい金属音がした。
「ちっ」
 紅の甲冑を反転させて、逆側からの打ち込み。弧を描くハンマーを、蒼の騎士は後ろに下がってかわす。ヴィータはその瞬間を狙って鉄球を召還し、遠心力を使って打ち放つ。双剣でそれをはじく合間に三射、四射と続けざまに繰り出してじりじりと距離を空ける。第五射を放った直後、彼女は自らの鉄槌に向かって語りかけた。
「行くぞ、グラーフアイゼン!」
『Ja――Raketenform』
 弾薬の音がして、彼女の槌が変形する。対象に叩きつける部分がスパイクに変化し、その逆側からは橙色の光が漏れる。その輝きの流れは濁流から激流に変化し、自らが踊るように加速度をつけ始めた。グラーフアイゼンに合わせ、ヴィータは体を独楽のように回転させる。十分に加速したところで、蒼の騎士に向かって飛び出した。
『drei』
 槌を振りかぶろうとする瞬間に見えたのは、あの時と同じ三又の矛。供給されるカートリッジの魔力。鉄球の連打を弾いた後のわずかな隙に相手は迎撃体制を整えていた。
「穿て」
 ヴィータはとっさに、振りかぶった槌を何もない空間で振り下ろす。
 蒼の騎士に突進していた彼女の体は、グラーフアイゼンに引っ張られるように軌道を変え、急降下した。その頭上を蒼の閃光が通過する。
 さらに体をひねって、急上昇。円を描くように騎士の頭上に回りこみ、スパイク状の鉄槌を構えた。
 騎士はヴィータに向かって双剣をかざす。間を遮るように、瞬時に魔方陣が展開されたが、鉄槌の騎士はそれを意に介せず、自分の武器を叩きつける。
「ラケーテン・ハンマー!!」
 彼女の雄叫びと共に、激しい魔力の火花が散る。
 均衡した槌と盾。ヴィータはそれを打ち破るべく、さらに力を込めた。
「ぶち抜けぇ!」
『Jawohl』
 魔方陣にひびが入り、グラーフアイゼンが食い込む。
 相手が障壁を張ろうと、それごと押しつぶすのが、彼女の技だ。
 そしてその破壊力と実績ゆえ、彼女はこの時も、数秒後の結果を自分の勝利と信じていた。
『Anfang』
 蒼の甲冑から響く、もう一つの声。
 同時に放射される、強大な魔力。
 今にも割れようとしていた障壁が、その傷を修復しながらヴィータを押し返そうとした。
「――な、にっ」
 打ち破れない。
 驚きながらも、本能でそれを判断した彼女は、自らの槌からなおも噴射される魔力を使って、蒼の騎士から距離をとった。
 グラーフアイゼンが、息継ぎをするかのように蒸気を噴出する。弾薬がバラバラと零れ落ちた。
(何だよ――あれ)
 思考のまとまらないヴィータに落ち着つかせる暇を与える間を与えず、騎士は武器を構える。
 その無造作な仕草になぜか悪寒を覚えた彼女は、矛に合わせて体をひねる。
 出来た空間を、先程と同じ蒼の光が突き抜けた。
「っ!?」
 至近距離を通過した魔力による衝撃が、仮面ごしに彼女の頬を震わせる。
 第二撃の構えを取っている騎士にヴィータは距離をとり、空中を旋回した。彼女の周囲を、魔力の奔流が次々と焦がしていく。
 目の前の光景に、彼女は冷や汗が全身から吹き出るのを感じた。
 彼女たちの武器は、カートリッジを使用することで、一時的に爆発的な魔力を得る。しかしそれは、持ち主にも、武器自身にも負担をかける諸刃の剣でもある。そのため、カートリッジを消費した技は、自然と所有者の必殺技となる。つまり、武器と所有者がよほど頑丈でない限り、普通は二度も三度も放ったりはしない。
 にもかかわらず、ヴィータと相対する蒼の騎士は、その必殺技を牽制代わりに連打している。しかも、先程まで使っていたはずの弾薬もなしに、だ。
「くっ、カートリッジロードっ!」
 弾薬を消費し、ばらまいた鉄球を四つ同時に打ち放つ。それは赤の光を伴いながら、蒼の騎士に着弾し、激しい炎を噴き上げた。
 彼女はさらに球をよび出しながら、炎上した人影をにらむ。
 数秒後、赤の光の中から、蒼の甲冑が飛び出し、ためらうことなくヴィータに向かって近づいてきた。
『zwei』
 三又の矛が分割し、双剣となる。鉄槌の騎士は動きをとめ、迎撃するべく槌を構えなおした。
 響く、カートリッジの音。
 それはグラーフアイゼンのものではなく、蒼の双剣のうなり。
「――分かて」
 ヴィータの視界を、巨大な十字が埋め尽くす。
 反射的に展開した障壁を砕き、彼女を裂こうと牙を向く。
「パンツァーシルト!」
 ヴィータの背後から飛び出したザフィーラの叫びと共に、白の魔方陣が展開され、彼女を守る。双剣の刃は紅の甲冑を破ることなく、ひび割れた魔方陣に食い込んだまま止まる。
 直後に足元から鎖が伸び、蒼の騎士の体を拘束した。
「離脱だ、ヴィータ!」
 ザフィーラは蒼の騎士に相対したまま振り返らずに叫ぶ。ヴィータの足元に緑の魔方陣が展開され、彼女の視界が白く染まる。
 光が収まった時には、アルベンハイムの客室に戻ってきていた。
 打ち鳴らされる鋼の音も、爆発の衝撃もない、穏やかな空気。
 緊張していた気持ちが一気に弛緩し、安堵のため息が漏れる。
 そしてすぐに、蒼の騎士に歯が立たなかった事実が、ヴィータに重くのしかかった。
「……くそぉっ!」
 紅の甲冑もそのままに彼女は拳を地面に叩きつけてうずくまる。シャマルは、ヴィータの肩をそっと抱いて話しかけた。
「仕方ないわ、ヴィータちゃん。あの人は、あまりにもおかしかった」
「ああ。魔力量が我々を完全に上回っている。二対一でどうにか互角、というところだろうな」
 獣姿になったザフィーラが、冷静に分析する。二人の慰めに、ヴィータは反応しない。
 悔しさに、彼女は全身を震わせた。
 蒼の騎士をしとめるどころか、シグナムの代わりに一撃報いることすらできなかった。
 守護騎士がこの体たらくで、一体主の何を守れるというのか。
 ショックは尾を引き、着替えて、シャマルの淹れた紅茶を飲んでも、気分は晴れなかった。いつもなら苦いだの薄いだの何かしら文句を言うところだが、口を開く気にもならない。
(シャマル、いるか!?主クラウスが倒れた。すぐに戻るから、主の部屋にいてくれ!)
 唐突に響いたシグナムの念話に、疲れていた心臓がドクンとはねる。
 悪いことは重なるものだ、と、自分の中の誰かが突き放したように呟いた。


次回予告

 主の不調や蒼騎士との戦いの敗北と、我々にとっては望ましくない出来事が続く一方で、闇の書の蒐集は後半に入る。
 闇の書とのコンタクト。断片的に語られる過去。主は何を思い、望むのか。
 魔法少女なのはPS 第4話 はちみつ色の思い出
 是非、読んでいただきたい。


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少年少女の主張 (1)

エ「はーい、みなさーん、こんにちはー!」
『こんにちはー!』
エ「ありがとー!学園祭企画『少年少女の主張』、本日は悩み多き小学校生活を送るみなさんに、思いの丈を精一杯主張していただきたいと思いまーす!会場は私立聖祥大学付属小学校屋上、司会は、遠くの世界からやってきましたー、私エイミィ・リミエッタとっ」
美「ご近所代表、高町美由希でお送りしまーす。運動場のみんなー!準備はいいかなー!?

『わあああぁ~~~~~!!!\(^▽^)/』

ユ「……ねぇクロノ、ここはなのは達の学校だよね?どうして僕達がこんなことをしてるんだろ?」
ク「さあ……きっとお話の都合――もとい、なのは達が忙しいからそのお手伝いってだけなんじゃないか。ま、僕らは下準備だけだし、かまわんさ」


エ「では、早速いってもらいましょう!栄えある一人目は、本校四年生、フェイト・T・ハラオウンさんです!」



フェイト・T・ハラオウンの主張 -伝えたいこと-


フ「えっと、その、あの……」
『フェイトちゃーん!』『かわいー!』
な「フェイトちゃん、頑張ってー!」
フ「!……き、今日は、ある人に伝えたいことがあって、この場に来ました」
『なーにー!?』
エ「フェイトちゃん、深呼吸をしています……会場が固唾を呑んで見守っていますよ……!さあ、目を見開いた!








フ「大好きだー!!!!!!!なのはああああぁぁー!!!!」









『きゃー!言ったー!c(>ω<)ゞ』『うわぁー!??Σ(T□T)』『そんなー!?Σ(|||▽||| )』

エ「い、いきなりの爆弾発言!シンプルかつストレート!時空が歪みそうな破壊力です!すごい、凄いぞフェイトちゃん!」
美「フェイトちゃんのファンも多いのか!?運動場が色めき立ったり天を仰いだりと阿鼻叫喚!」
『なのはちゃん!?』『高町さーん!!』
美「さあ、告白された当事者はどこだ?なのはー!全校生徒が見てるよー!」
ユ「み、美由希さん、満面の笑顔だね……って、クロノ?なにうずくまってるの?」
ク「フェイト――お兄ちゃんは……どうすればいいんだ……orz」

エ「あっと、いた!なのはちゃん!」










「ご め ん な さ い!!!!」










オォォーーー!! w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!!
エ「な――なんと、まさかのごめんなさいです!フェイトちゃんは……フェイトちゃん!?」
フ「……」
美「フェイトちゃん、真っ白だ!綺麗な金髪がススけているゥ!!背中から何かでています!」

エ「あっと膝をついた!……立ち上がれない!たちあがれなーい!!か、開始一人目でドクターストップ?前代未聞の病院送りかッ!?」

な「ちょ、ちょっとアリサちゃん!?フェイトちゃん!今の私じゃないよ!」

エ「え、あっと確かに!勢いで勘違いしてしまいました」
す「あ、アリサちゃん、落ち着いて!」
ア「だって……なのはは、あたしの、あたしのっ!!
エ「おおっ!?先程のごめんなさい発言をしたアリサちゃんが地団太を踏んでいる!これは三角関係発動か!?いや、隣のすずかちゃんがカットに入る!見事なアームロック!引きずった、引きずって行ったあぁ!!!
美「さて一方の告白タイム!改めてみんながなのはに注目しているぞ!」
な「え?あう、そのあの――」
エ「イエス、orノー?フェイトちゃんの運命はどっちだ!?」
『なのはちゃんファイトー!』『いっちゃえー!』
美「応援が飛んでいます――あっと大きく息を吸った!










な「わ、私も大好きだよぉ!フェイトちゃああああん!!!!!」










(」゚▽゚)」(」゚▽゚)」(」゚▽゚)」ウオオオオン!

エ「いった、言ったー!こ、これは公開告白!?なのはちゃんたち公認カップルってこと!?」
ユ「――普通に、親友としての『好き』じゃないかな、なのはの場合あだっ!?アルフ、痛い、痛いって!
ア「ぶすいあこぉいうかぁら、おにょふぇえっおもおき!」

美「会場が拍手の嵐!おめでとう、フェイトちゃん、なのは!」
ク「orz……はっ、いかん、待てフェイト、飛ぶんじゃない!バルディッシュ魔法を使うなあああぁ!!


   *


美「いやー、フェイトちゃんお疲れ様。いい主張だったよーっ」
ク「頼む……寿命を縮ませないでくれ……色んな意味で」
エ「クロノ君は大げさだって。それにしても、ごめんねフェイトちゃん。無理言って最初に出てもらって」
フ「(ぷるぷる)――いいんです。その……」
ア「ん?何、フェイト?」



















フ「これ、癖になりそう……」

なのは PS 第4話 (1)

 誰かに呼ばれた気がして、クラウス・アルベンハイムは目を開いた。否、自分は眠ったままだ。はっきりと夢だと認識している妙な感覚を味わいながら、彼は周囲を見渡した。
 その空間は、見渡す限りの闇、闇、闇。どちらが上で、下かも分からない。まるで宇宙に投げ出されているかのような錯覚を感じる。遠くできらめいているのは星だろうか。その光と自分の体だけが、その世界を認識するための座標だった。
 ふと、近くに現れる存在感。強く、それでいてどこか儚い雰囲気。クラウスが目を向けると、そこには彼と同じ年頃の少女が立っていた。
 雪のような白い肌。シンプルな黒のワンピース。闇の中なのにはっきりと見える綺麗な少女は、クラウスとは間違いなく初対面だ。
 しかし彼は、確信を持って頷き、彼女に笑いかけた。
「はじめまして、でいいのかな。君が、闇の書だよね?」

第4話 はちみつ色の思い出

 闇の書の名を呼ばれた彼女は、小さく頷いた。それから、さらにクラウスに近づいて、ひざまずくようにして頭を下げる。背中まである白銀の髪が、彼女の肩からさらりと流れた。
「お初にお目にかかります、主クラウス。蒐集が400ページを超え、人格起動が可能になったため、主の元に馳せ参じました」
「そうか――ありがとう。ここは君の心の中、なのかな?」
「闇の書の世界でもあり、貴方の夢でもあります。直接ではなく、このように夢の中で挨拶する無礼、お許しください」
 頭を下げたままで話す彼女に、クラウスはそっと苦笑して口を開いた。
「――頭を挙げて。何となくだけど、君は少しシグナムに似てるね」
 顔を挙げた少女は、主の顔をまっすぐに見つめる。
 紅玉のような、赤の瞳。クラウスと同じ、血の色をした目だった。
「主のお許しがいただければ、私はいつでも貴方と会話が出来るようになります。恐れ入りますが、どうぞ許可を」
「ああ、もちろん。許可するよ」
「ありがとうございます。追って守護騎士からも連絡されると思いますが、現在の蒐集は410ページ。現時点では実体化も出来ず、主のお役には立てませんが――全ページ揃ったあかつきには、貴方の願いを、叶えます」
 凛とした瞳に見つめられて、クラウスはわずかに目をそらせた。
 自分の願いに、やましいものを感じたからだ。
「君は、もう僕の望みを知っているのかな?」
「はい、分かっているつもりです。闇の書の封印が解けてから、私からのアウトプットは出来なくとも、本の中から貴方を見ていましたから」
「――僕のやろうとしているは、ただのエゴなんだろうか」
 クラウスの台詞に黙ったままの少女に、彼は自らの赤の瞳を向ける。
「守護騎士たちは、文句も言わずについてきてくれるけど、時々、どうしても自己嫌悪におちいるんだ。君は、どう思う?」
「申し訳ありません、私には分かりかねます」
「うん――ごめん。自分の選択は、自分で責任をとらないとね。君たちに頼っているくせに、君たちにその是非を問うなんて、主としてマナー違反だ」
 闇の書は、困ったようにわずかに眉をひそめた後、元の無表情に戻って口を開いた。
「お気になさらないでください。主クラウスの是非を判断することは、私には出来ません。ですが私たちは、貴方を単なる所有者として以上に信頼しています。貴方が真の主となることを願い、良き所有者であり続けることを信じています」
 そして自分が主にふさわしい人物に成長したとして、その犠牲になった人たちは浮かばれるだろうか。命を落とした人もいるだろう。そうでなくとも、未来を狂わされた生き物が、少なくともページに蒐集された人の数だけいる。
 クラウスは、湧き上がる感傷を無理に抑えて、闇の書の気遣いに礼を言った。今しがた反省したばかりではないか。一度下した決断を迷ったら、ついてきてくれる人までも裏切ることになる。それでは、誰も報われない。
 クラウスは、軽く首を振って頭を切り替える。少女の整った顔を見つめ、思い出したように呟いた。
「それにしても、今更なんだけど――」
 首をかしげるクラウスを見て、闇の書は同じように首の傾斜をつける。
「君の事は、なんて呼べばいいのかな?」
「私は、闇の書の意志であり、闇の書そのものでもあります。そのまま呼んでいただければ結構です」
「うーん、なんだか呼びづらいな……何か別の名前で呼んでもいいかい?ニックネームがあった方が言いやすいし」
「――」
 言葉に詰まる少女の前で、ぶつぶつと人名らしき単語を口ずさむクラウス。十数秒して、彼は眉を八の字にしながら首を振った。
「駄目だ……センスがない自分が恨めしい。今度、ヴォルケンリッターのみんなとも相談してみるよ」
「――本当に、貴方は変わった主ですね」
 呆れたように口にして、彼女ははじめて主の前で微笑む。クラウスも、片目をつむりながら口元を緩めた。
「重要なことだろう?これから長い付き合いになるんだし、ね」

    *

 クラウスは再び目を開ける。見慣れた天井。差し込んでくる光。今度は確かに眠りから覚めたようだ。
 しかし解せないのは、守護騎士四人(三人+一匹)が勢揃いで自分を見下ろしていること。今は何時で、これは一体どういう状況なのだろう。
「主クラウス!」「体調はいかがですか主」「クラウス……!」「主様!大丈夫ですか!?」
 主の「え~と」という呟きは、ヴォルケンリッターの声によってかき消された。
 額に手を当てて、自分の記憶をたどる。
「そうだ、昼間、舞踏会に行って、帰り際に――」
 呟くクラウスの手をとり、シャマルが彼の顔を覗き込む。
「――うん、脈拍は正常。熱もすっかりひいたみたいですね」
「急に倒れられたので、驚きました」
 シグナムが目を細めて主を見る。いつもの凛々しい表情とは少し違う、安堵の笑顔。
「心配かけたね、シグナム。それにみんなも。ありがとう」
 頷くヴォルケンリッターの面々の中、一人だけ俯いたままの人物がいた。
「ヴィータ、どうした?」
「……とに…い………な」
 呂律の回りはともかく、いつもはっきりと話す少女が、抑えつけたような声を漏らす。何事かと体を起こして聞き返したクラウスに、ヴィータが突進してしがみつき、額を胸に押し当てた。
「本当に、心配したんだからなっ!!」
 震えた声だった。
 服がしわになりそうなくらいに、強く握られる。
 その体当たりの気持ちに、クラウスは胸を詰まらせる。少しの間ためらった後、小さな肩にそっと手を添えて、頭をなでた。
「――ごめん、ヴィータ。もう大丈夫だよ。そう簡単に、どうにかなったりするもんか」
「もう二度と、勝手にぶっ倒れたりするんじゃねぇぞ、バカやろう……」
「ん、約束する」
 朱色の髪を梳いていると、彼女はおもむろに頭を離し、クラウスに背中を向けた。シグナムのため息も、シャマルの「あらあら」という楽しげな声にも反応しない。
 一方で、獣形態のザフィーラは至極冷静に主に話しかけた。
「主殿、今までにも同じようなことはあったのですか?」
「あったね、確か二回。これで三回目。発作、なのかな。その時はすごく息苦しくて脱力感があるんだけど、しばらくすると何事もなかったみたいに治まっちゃうんだ。一応医者にも診てもらったんだけど、特に異常は見られないって」
「そうですか。一回目はいつ頃のことか、覚えていますか?」
「そうだなあ……十三才の冬、かな」
「その頃に、何か変わった出来事は……」
「変わったこと、かぁ。その年は、色々あったからね」
 クラウスは曖昧に微笑んで、部屋の中を見渡した。
 本棚に置かれている父の日記。机の中にしまってある、母の形見の髪飾り。今も身につけている、兄姉にもらったお守りのリング。
 良いことも悪いことも含めて、当時の沢山の思い出が部屋の中に残っている。
「でも、やっぱり、印象強いのは二つかな。一つ目はその年の春に母が亡くなったこと」
 さらりと述べた一言が、その場に重い沈黙をもたらす。クラウスは気付かないふりをして、続きを話した。
「こういうご時世だからね。仕方がないとは思うけれど、すごく悲しかった。だけど、もう一つは良い方の話だよ。はっきりとは覚えてないんだけど、その前後に、僕は闇の書と出会ったんだ」

    *

「……どう思う?」
 客室に戻るなり投げかけられたヴォルケンリッターの将の質問に、ザフィーラは首を傾げた。質問の意味を読み取れなかったわけではない。しかし彼も、主の症状と発言について、どういう意味を持つのかを判断しかねていた。
「分からん。だが、今回主が倒れた原因が闇の書である確率は低い」
「そうだな。初めての発作と今回のものが同じなのだとしたら、闇の書の侵食が原因とは考えにくい」
 ザフィーラの意見にシグナムが同意する。一度目の発作が、主が闇の書を所有してから約半年。もし闇の書の侵食でクラウスが倒れたのなら、今現れる症状はその時よりもずっと深刻なはずだ。
「私が診た感じでも、闇の書の侵食は感じられなかったわ。だけど――」
 言いよどむシャマルに、残りの二人は無言で目を向ける。彼女は自信がなさそうに目を伏せて再び口を開いた。
「クラウス様の魔力がかなり減少していたの。普段の半分以下。多分、倒れたときはもっと少なかったんじゃないかしら」
 シグナムはあごに指を添えて目を閉じる。少しして、眉をしかめて首を振った。
「しかし、主クラウスにはそれらしい予兆はなかった。激しい運動をしたわけでも、まして強大な魔法を使ったわけでもない」
「特に変わったこともなし、か。その場に、主の他にも体調を崩したものがいたら、推測もつきそうなものだが」
「それもなかった。私も、ベルンハルト殿も大丈夫だった」
 そこで、真剣で鋭かったシグナムの目つきが優しいものになる。ザフィーラが不思議に思って耳をひくつかせると、彼女は口元を緩めて言った。
「ああ、主が倒れたときのことを思い出してな。あの時は血の気がひいたが、ベルンハルト殿が珍しく取り乱していたのが新鮮だった。移動中、あの方はまるで父か母が子にするように、ずっと主クラウスの手を握っていた」
「大切に思っているのね。クラウス様のこと」
 穏やかに微笑み返すシャマルの横で、ザフィーラは一人、違和感に喉をうならせた。
 家族を大切に思うのは何も不自然ではない。両親のいないアルベンハイム家であればなおさらだろう。現にベルンハルトは、クラウスのことをよく気にかけ、見守っていた。
 だが――気になる。
 あの若き領主は恐らく、大事であるほど、感情を切り離し、冷徹に事を進める、そういう類の人間だ。
 一番を捕るために、二番目以下を諦めることができる。
 上に立つものにはしばしば求められる、強く、醒めた心の持ち主。
 その彼が、家族が倒れたときに、人並みに動揺などするだろうか。
 可愛い弟が倒れたのならば、慌てず騒がず、すぐさま医者を呼びつけ、休憩するための部屋を手配する。その方がよほど彼らしい。
(とはいえ、疑っていたらきりがないか――)
 常に一歩身を引き、周囲に気を配るのが自分の役目だとザフィーラは思っている。しかし、神経質になりすぎては、逆に重要なことを見失いかねない。疑心暗鬼にかからず、しかし誰をも信じすぎない。主の守護獣たる自分には、それくらいの気構えがちょうどいい。

 ソモソモ、主デスラ、イツ狂気ノ闇ニトラワレルトモ限ラナイノダカラ――

「っ!?」
 自分の中をよぎった、この上なく不吉な予感に、ザフィーラは身震いした。
(何だ、今のは――!?)
 想像にしてはあまりにもリアル。
 まるで、悪夢のように、来て欲しくないものばかりが近寄ってくる、不快な幻。
 鼓動が治まらない。
 何度か深呼吸をしてから、にじみ出る冷や汗を振り払うかのように顔を振るわせた。
「どうしたの、ザフィーラ?お腹すいた?」
「い、いや――なんでもない」
 シャマルは目を瞬かせて、彼の様子を見つめる。ザフィーラの心のざわめきとは対照的に、客室の雰囲気は穏やかなままだ。シグナムは金髪の女性を見て小さく笑った。
「妙な発想だな、シャマル。ヴィータでもあるまいし」
「うー、さっき似たようなことをヴィータちゃんに言われたわ」
「そういえば、あいつは大丈夫なのか?主クラウスのこと以外にも随分と落ち込んでいたみたいだったが」
 彼女の疑問に、シャマルは再び顔をうつむかせた。
「さっき、蒼の騎士に会ったの。――完敗だったわ」
 穏やかな、しかしいつもよりも重い声が、先程の蒐集の様子を再現する。
 蒼の騎士に遭遇して、ヴィータが時間稼ぎをかってでたこと。途中までは彼女が押していたこと。途中から、急に勢いづいた蒼の騎士が、守護騎士を圧倒し、ほうほうの態で逃げてきたこと。
「そう、だったか。しかしヴィータの奴、無茶をする」
「ごめんなさい。でも――」
 何かを言いかけるシャマルを制して、シグナムは頷いた。
「分かっている。あいつがどんなつもりでわざわざあの騎士に戦いを挑んだのかはな。それに、私たちの魔力をはるかに上回るなど、一度剣を交えた私ですら想像つかなかった」
「ああ。侮っていたつもりはなかったが、しかし甘かった。今後は奴に一切近づかないか、それとも――」
「全員総力で倒すか、どちらかだな」
「魔力の波長は記憶したから、少なくともあの人がデバイスを出している間は即座に察知できると思うわ。蒐集も後半。慎重に、行きましょう」
 ヴォルケンリッターは、頷きあう。それからシグナムが、思い出したように外を見てから、ため息をついた。
「――ということは、今頃ヴィータは主殿に甘えているかもしれんな。困った奴だ」
「あら、それはいつものことじゃない」
 可笑しそうに言うシャマルに、シグナムは苦笑半分に同意する。
 そしてそれを黙認している自分たちも主に甘えているのだろう、とザフィーラは思ったが、口にはせずに尻尾を一振りした。

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Appendix

プロフィール

鳳 珠志

Author:鳳 珠志

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INDEX

ごあいさつ
ことの葉インフォメーション
■長編
 ・魔法少女リリカルなのは -PS-
   第1話 (1) (2)
   第2話 (1) (2)
   第3話 (1) (2)
   第4話 (1) (2)
   第5話 (1) (2)
   第6話 (1) (2)
   第7話 (1) (2)
   第8話 EP
 ・白雪の舞う空
  (1) (2)

■短編
 ・桜の咲く季節
 ・少年少女の主張
  (1) (2) (3) (4)
 ・守護獣ザフィーラの日常
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13) (14) (15)
  (16) (17) (18) (19) (20)
  (21) (22) (23) (24)
 ・守護獣ザフィーラの日常 Sts
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13)
 ・守護獣ザフィーラの任務
  (1)
 ・打ち上げ花火
 ・あの子になりきり!
 ・リーダーへの道
 ・あだなをよばせて
 ・深夜のたたかい
 ・サンタの住む場所 - 23日 -
 ・サンタの住む場所 - 24日 -
 ・サンタの住む場所 - 25日 -
 ・芸術の新春
 ・決戦前の共闘
 ・なのラジ - ことの葉放送局 -
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11)
 ・大人への距離
 ・雨とぬくもり
 ・感謝をあなたに
 ・琥珀色の安らぎ
 ・その手は小さくとも
 ・マーメイド宣言
 ・ある夏のひまわり
 ・ちょっと大きな一日
 ・巡る秋風
 ・平日の聖夜
 ・プレゼント・フォー・ユー
 ・夜まではまだ少し
 ・シーツ越しの気持ち
 ・二房の髪

■頂き物
 ・花かんむりとお姫様

■web拍手
 ・全く脈絡のない会話集
 (1) (2)
 ・お返事
 (1) (2) (3)

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「桜の咲く季節」のようなほのぼの
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