強い日差しのせいだろうか、季節の割に暑く感じられる日だった。
青空の下、軽快な音楽が響き渡る。銃声に酷似した火薬の音が鳴り、その度に大きな歓声とともに目の前で可愛らしい競争が行われた。
私、盾の守護獣ことヴォルケンリッター・ザフィーラは、他の守護騎士の面々とともに体育祭なるものを見に来ていた。無論、目的は主はやての雄姿を見ることであるが、その活気には驚かされる。
短距離走や障害物競争などの身体能力を問うものから、二人三脚やムカデ競走といったチームワークがものをいうものまで、プログラムは数多くあり、やる方はもちろんのこと、見るものも飽きさせない。私たちの他にも多くの家族が、記録媒体を片手に声援を送っていた。
「お、あそこにいるのはやてじゃねえか?はやてー、頑張れー!!」
ヴィータがスタート位置に向かっているらしい主はやてに向かって手を振り回す。距離があるから気づかないだろうと思っていたが、主殿はこちらにしっかりと気づいて手を振り返した。
「はやてちゃんが出るのは、どんな競争なんですか?」
「借り物競走という競技のようだ」
リインの問いに、シグナムがプログラムを見ながら答える。
改めてグラウンドを見ると、生徒たちがコース中に置いてある紙を見て、家族やクラスメイトになにやら大声で要求をしていた。
「どなたか、ボールペンをかしてくれませんか!?」「すみません、一緒に来てください!」「眼鏡、眼鏡はどこー!?」
なるほど。指定されたものをその場で調達してゴールする競技か。結果はくじ運に左右されそうだが、見ている側も参加できる点が興味深い。それに、運動神経の差が緩和されるのも特徴だろうか。
「ふっふっふ……大丈夫よ、はやてちゃん。なんでもご所望の品を持ってきてあげるから……!!」
シャマルが、怪しげな笑みを浮かべながら、両手をわきわきとうごめかせた。
「お前……今朝テーブルの上を散らかしていると思ったら、そういうことか」
シグナムが、感心半分、呆れ半分に言う。八神家のテーブル上に準備してある小物やら何やらを、主殿の指示に応じて転移魔法で引っ張ってくるつもりらしい。いや……主はやては、そういうのは好まないと思うぞ?やるつもりなら、くれぐれも自然にな。
「あ、なのはさんが走ってきますよ」
リインの声にグラウンドを見ると、高町なのはがコース上の紙をめくるところだった。きょろきょろと周りを見渡し、私たちを見つけると、一直線に走り寄ってくる。
「ヴィータちゃん!お願い一緒に来て!」
「んあ!?お、おう」
目的のものなのかを確かめる間もなく、ヴィータはなのはに手をひかれていく。目を白黒させながらも素直に従った彼女は、2、3レース後に眉をひくつかせて戻ってきた。
「お疲れ様、ヴィータちゃん。よかったじゃない、なのはちゃんの役に立てて」
「うるせえ!あいつ……あいつ!」
ねぎらいの言葉は、ヴィータの神経を逆なでしたらしい。彼女はプルプルと肩を震わせて、拳を振り上げながら不満を吐き出した。
「年下の子って題目で、あたしを連れて行ったんだぞ!!」
賑やかなグラウンドで、私たちだけが沈黙に包まれる。
それは酷いと同意するべきなのか、見た目どう考えても年下だろうとツッコミを入れるべきなのか、数秒の間迷った挙句、私は重々しく念を飛ばした。
(……そうか。ご苦労だった)
「一言ですますな!大体、年下っていうんなら、リインがいたんじゃねーか!」
「リインちゃんは、普段は掌サイズだものね……人間の女の子サイズでいるかもっていうところまで、とっさには気づかなかったのよ、きっと」
残念そうな表情を浮かべるリインの頭をなでながら、シャマルが苦笑する。納得のいかないらしいヴィータは、その場で足をふみならした。
「しかし、借り物には人も含まれるのだな」
「胸の大きな人、って言われたら、シグナムの出番ね」
「くっ――その時はお前が行け、シャマル!」
シグナムたちが漫才をしているのをよそに、レースは進んでいく。続いて、知り合い――アリサ嬢の顔が視界に入った。彼女は紙をめくり、少しの間考え込んだ後、私たちの方を見てにやりと笑う。
何かを探す様子もなく、コースを再び走り出し――
そして、私を指さしながら大声で言った。
「ザフィーラ!こっちに来て!」
「なっ」
戸惑う私の背中を、シグナムがポンとたたく。ご丁寧に、首輪と手綱がいつの間にか付けられていた。
「ご指名だぞ、行ってやれ」
(――そうだな)
「アルフ!貴女もお願い!」
飛び出した私に続いて、アリサ嬢の呼びかけでアルフも走り出す(彼女も子犬姿で外出していたようだ)。子犬を二匹連れた少女は、悠々と一位でゴールし、先生と思しき女性に紙を手渡した。
「凄いわね、バニングスさん。この子たちは、貴女のお友達?」
「ええ、近所の子なんです。すっごく賢くて。このお題、下手すると飼育室まで行かなきゃいけないでしょう?なので手伝ってもらいました」
「あはは。実は、本部で飼育係の子が待機させてたんだけどね、『動物のカップル』」
女性とアリサ嬢の会話に、私はアルフと顔を見合わせる。
遅ればせながら私の連れてこられた理由がわかって、私は思わず身構えた。
アルフと私がカップルなのは、まあアルフの方も気にしないだろうから置いておく。だが、性別を確かめられるのは正直遠慮願いたい。
しかし、私の心配は杞憂だったようで、私たちはろくに確認もされずにあっさりと解放された。
(やれやれ――)
安堵のため息をつく私に、アルフがくすくすと笑いかける。
(何?男かどうか見られるかと思った?)
(――まあな。お前だって嫌だろう?)
(あたしは女だから、あの先生に見られたって気にしない――ああ、男だったら逃げるね、きっと)
相変わらず、さっぱりとしている。私としては苦笑するしかなかった。
皆の場所に戻ると、そこは妙に活気づいていた。何が起こっているのかは想像に難くない。
(主殿の出番か)
「あ、お帰りなさい。よかったわね、間に合って」
「おせーぞ、ザフィーラ」
話している間に、スタートのピストルが打ち鳴らされる。
私たちは思い思いに応援しながら、主殿が紙をめくる瞬間を、かたずをのんで見守った。
主殿がこちらを向き、走り出す。私たちは自然と前のめりになり、シャマルにいたっては両手を旅の鏡に突っ込んでいた。
「『父兄の方』や!誰か――」
(よし、あたしが行く!)
(ああっ、リインが行きたいですぅ!)
(いや待て!フケイ、というのは「父兄」だろう!?つまり、男性の家族のことではないのか!?)
(えっ!?でも、父兄参観って、お母さんも行くって聞いたことがあるわ!)
(っ、どっちにしろ、ザフィーラが行けば文句はねえはずだな!?)
(いや、私は今、獣の形態だ!問題があるだろう!?)
(男で家族だ!問題ねぇ!)
(私も犬は疑問が残るが――事は一秒を争う!行ってこい!)
この念話に要した時間、計1.2秒。
「わふぅおん!?」
私はヴィータに投げ込まれ、二回転半しながら地面に着地。観客の拍手を浴びながら、自分の主を見上げる。
彼女は戸惑うように目を瞬かせたが、すぐに満面の笑みを私に向けた。
「行こか、ザフィーラ」
主の後をついて、私は走る。
歩くこともままならなかったあの時とは違う、主はやての確かな足取りに、私は目を細めた。
普通に皆と日常を楽しむことができる。
それは、何と貴重で素晴らしいことだろう。
息を切らせて走る彼女に、私はそっと内心で応援をし続けた。
結果は二位。主殿と同様、すぐさま題目の品を手に入れたらしい生徒の方が、少しだけ早くゴールしていた。
「残念やー。でも、楽しかったな」
主殿は肩で息をしながら、それでも本当に満足そうな笑顔で私の頭をなでる。
「お疲れ様、八神さん。えっと『会場にいる父兄の方』だけど――」
「はい先生。せっかくなので、自分の家族と走りたいなと思いまして」
「そう。この子、八神さんのところの子なのね。オーケーです」
抱きかかえられた私を見て、借り物のチェックをしている女教師は、微笑みながらうなずいた。
「ところで――やっぱりこの子が雄、よね。じゃあ、さっきの赤毛の子が女の子、か。なるほど」
女性は私の一点を見ながら、納得したように呟く。彼女に腹を見せている状態の私と、彼女の位置関係からして、その視線の先は――
「あ、わ、ザフィーラどうしたん!?暴れたらくすぐったいよっ」
は、放してください主殿おおおぉぉぉっ!!
グラウンドに、私の哀れな鳴き声が響いたが、賑やかなこの場では、きっと一部にしか聞こえなかっただろう。
主殿たちの体育祭はまだまだ続く。
が、その話は別の機会にいずれ。
候補者。そして予想
高町家
高町史郎:多分娘(なのは)に甘い親ばか(バカ親かも)
高町恭也:自分にも他人にも厳しいが、なのはと恋人にはやたら目っ茶甘い漢。原作リリカルではなのはの初の男友達(クロノ君)が家に来たときはとても不機嫌になった。
どっちがなのはと出るかで、二人して大人気無く揉めそうな感じですね。漁夫の利は桃子さんか?(後でなのはが父と兄の頭を冷やしそう)
ハラオウン家
リンディさんかクロノ君ですね。
でも、猿轡つきのバインドで、クロノ君簀巻にされて、嬉々として競技に望みそうなリンディさんが思い浮かびました。
八神家
変身魔法で、ヴィータとリィンが大人になり、家族で出場権争奪戦開始。このサイトでは他の面々の結託によりザフィ開始早々脱落か?
運動会ネタ。
主殿たちの体育祭はまだまだ続く。
が、その話は別の機会にいずれ。
なんてありますから、期待できそうですね。
楽しみにしてます。