薄紫の魔力と白の魔力が火花を散らす。
金属を打ち鳴らす音が、雄たけびと共に空気を振るわせる。
私、盾の守護獣ことヴォルケンリッター・ザフィーラは、機動六課の訓練場で青の長髪の少女と相対していた。
彼女の名前はギンガ・ナカジマ。スバルの姉であり、六課に出向中の時空管理局員である。
故あってフォワードに参加している彼女と、何故私が戦っているのかといえば、例のごとく深い理由はなく、たまたま訓練の様子を見に来た私に、ヴィータが模擬戦のパートナーとして白羽の矢を立てたというそれだけの話である。
「はあああぁぁっ!」
地面から伸びる魔力の鎖を、ギンガはローラー・ブレードのデバイス、ブリッツ・キャリバーの機動力を利用して次々とかわす。そのまま私の目の前まですべるように詰めより、左手のリボルバーナックルを構える。私は四肢を低くしてシールドを展開し、彼女の拳を受け止めた。
高速移動でフィールドを制し、間合いを瞬時に詰めて、強烈な一撃を叩き込む。ギンガの戦闘スタイルはスバルのそれと酷似していた。
「この打撃も防ぐなんて――」
ギンガは、感嘆の呟きをしながらも、興奮したような表情を見せる。
シールドを展開しながら捕縛のための魔法を発動しようとした刹那、彼女は魔力の道を空中に向けて創りだし、私から一気に間合いを離す。軽やかなヒット・アンド・アウェイ戦法だった。
とはいえ、私としても、いつまでもいいようにさせるつもりはない。彼女の創った空への道を、飛行魔法を併用して駆け上がり、彼女の頭上に回りこむ。私の振りかぶった前足は展開された薄紫の障壁に阻まれ、お互いに弾き飛ばされる。同時に体勢を立て直した私たちは、空中で向き合って、不敵に笑いあった。
「うわぁ……二人とも凄いっ!」
戦いを見ていたスバルは、感嘆の声を拍手とともに送ってくる。見ているうちに気分が高揚したのだろうか、いつの間にか彼女も、自作のウィング・ロードで空中に上り、間近で観戦していた。
「本当に――凄いです。ここまで見事に防がれてしまうと、攻めあぐねます」
目の前の少女は、自身の妹に同意するように、額の汗をでぬぐいながら賛辞を重ねる。しかし、彼女の意見はそのまま私の感想でもあった。
素早い動きに強固な防御。攻撃も的確で、しかも重い。不意でもつかねば、簡単に撃墜できそうもなかった。
とすれば、後は持久力勝負か。
長期戦を覚悟しながら小さく息を吐くと、ギンガも深呼吸をして私をまっすぐに見つめた。
「こうなれば――奥の手を出すしかありませんね」
奥の手、だと?
いくら接戦とはいえ、それは模擬戦で出すようなものなのか?
そんな私の疑問をよそに、彼女は魔力の道を四方八方に広げる。
来る――
そう直感して、私が身構え直すのと、ギンガが動くのは同時だった。
彼女は一瞬で私の側面に回りこむ。
ギンガは、その場に立っていた妹に重なるようなポジションで、右手を振りかざす。
覚えのある、感覚。
なんだ?
これは、とてつもなく、嫌な予感がする――!
「……ギン姉、私のブラめくりはNGだよ?」
ギンガの腕が、まさしく閃めこうとした瞬間。
妹の台詞で、姉の動きが止まった。
「……うそ?」
「ほんと。ティアが以前にザフィーラさんの前でそういう作戦言っちゃってたから」
ギンガは、薄紫の道の上で踊るようによろめいて、崩れ落ちた。
「な、なんということ……さすがティアナ、私の秘技を習得済みなんて」
気まずい沈黙が、宙に広がっていく。
遠くで聞こえる小鳥の声が、何とも切ない。
……まあ、なんだ。
そういうところまで姉妹で似なくてもいいと思うぞ、私は。
というか、撃墜して良いのか?撃墜してしまうぞ?
私がため息と共に一歩踏み出し――
「戦いの途中で何やってんだこのタコー!!」
飛来した鉄球の轟音と共に、ヴィータの怒声が響いた。
「「すっ、すみませぇん!!」」
恐縮したように謝る姉妹は、しかし副隊長の唐突の攻撃も、何とか防御したらしい。大した反応速度と障壁強度である。
――で、それはさておいて、だ。
「二人とも、ウィング・ロードはどうした?」
「「はい?」」
私の問いを無邪気に聞き返す二人は、足元を見て、ようやく自分たちの事態に気づいたらしい。
恐らく防御に集中したためであろう。彼女らは、足場の維持ができずに落下していた。
「わ、わっ、落ちて――」
ぱたぱたと両腕を振り回すスバルの下に、私は飛行魔法で潜り込もうとする。
妹を背中でキャッチした後、そのまま姉を確保――まあ、何とかなるだろう。
「スバルっ!?」
姿勢を制御しつつ衝撃に備えた私の頭上で、ギンガの声が響く。
心配するな、二人を乗せて飛ぶくらいはできる。
そう答えようとした時、私のすぐ上を薄紫の魔力が通り――
ザリッ。
「「あ」」
ん?
*
結局のところ、ナカジマ姉妹は、私の手を借りるまでもなく無事に地上に降り立った。
空中で姿勢を立て直したギンガがいち早くウィング・ロードを再起動し、スバルを抱えたからだ。
「……今後は……気を、つけ……ぷっ……る、ようにっ」
ヴィータは、私たちの安否を確認した後、声を震わせながらそう言った。
威厳を保とうとしている努力は認めるが、眉と唇が引きつり、えもいわれぬ表情になっている。笑いをこらえているのは明らかで、にらめっこだったら見ている方がつられて笑ってしまいそうだった。
「ヴィータ、一体どうしたのだ?」
私の当然の疑問にも、彼女は首を振るばかり。
視線を他の二人に向けると、スバルは冷や汗と共に目をそらし、ギンガは至極申し分けそうな顔で頭を下げた。
「とりあえず、ギンガとスバルはトレーニング続行。ザフィーラ、お前はシャマルのところに行って来い」
ヴィータは私たちに背を向けて言い放った。察するに、私だけ怪我を負っているということだろうか。それにしては痛みもないが……
「あ、私がついて――」
「いや、無用だ」「連れはいらねえよ、そんくらい」
ギンガの申し出を、ヴィータと私が同時に辞する。私のことなどで訓練を妨げてしまうのは、良いことではない。
「最後はうやむやになってしまったが、見事な腕だった」
私は一言ギンガに伝えて、その場を立ち去った。
彼女たちの不自然な態度は何だったのか。
私はその理由をすぐに知ることになるのだが――まあ、その辺は割愛させていただく(彼女らの名誉のために少し追記しておくと、ナカジマ姉妹やヴィータその後も何かと私を気にしてくれた)。
何、詳しく語らずとも、少しの間ごく一部で流行った私のあだ名を聞けば、想像はつくかと思う。
シャマルが言い出したその名は――
「聞いたことがあるわ……これが、あの『逆モヒカン』ね!」
それとも、シャマルの治療?
これを繰り返しまくって、毛根が死滅
する結末がいつか訪れるに違いない・・・(こち亀にあったネタ)