「♪〜〜♪〜」
ある夜のことだ。
夕食が済んで間もない時間帯、私、盾の守護獣ことヴォルケンリッター・ザフィーラは、ソファーの上に寝そべって、あどけない鼻歌を耳にしていた。
歌の主である少女は、テーブルの上で色鉛筆を片手に、何やら絵を描いている。その容姿はヴィータよりも幼く、言動も外見相応である。口ずさんでいるメロディも、自らのオリジナルで、とりとめのない感じだった。
ヴィヴィオという名の彼女は、つい最近、機動六課で保護した女の子である。出会った(発見した)経緯からして何かとわけありなのだが、その辺は割愛しよう。ともかく、彼女は現在、なのはやフェイトの被保護者という形で、六課の寮で暮らしている。当初は母親役の二人がいないと落ち着かない様子だったのだが、環境にすぐに慣れ、今では留守番もできるようになっている(無論、私や寮母のアイナさんが眼を離さないようにした上で、の話ではある)。
ヴィヴィオは時折こちらを向いては私をジーッと見つめ、目が合うとにぱーっと笑う。今は私しかいない状況だが(夕食後になのは、フェイトが二人ともいないのは珍しい)なかなか上機嫌のようだ。かちゃかちゃと色鉛筆をとっかえひっかえ、厚紙に何やら絵を描いていた。
床に置いてある完成済みの絵に、何とはなしに目を向ける。そこには、女の子とおぼしき人の顔が二つ並んでいた。
栗毛の少女と金髪の少女。絵というには少々拙いかもしれないが、特徴をよく捉えている。一見して人の顔だと分かるし、髪形を見れば、誰かは一目瞭然だ。絵の中の少女たちは、にっこりと笑っている。ヴィヴィオから見た彼女らを表しているようで、何とも微笑ましかった。
「〜〜〜♪〜――……んぅ」
ごきげんな鼻歌が急に止まり、少女は困ったように立ち上がって、スカートの前を押さえながらきょろきょろと周りを見る。それから私に視線を合わせて、おもむろに一言。
「おしっこ」
いってらっしゃい。
――と、言える雰囲気ではなさそうだった。少しの思考の後、彼女の言いたいことにあたりをつける。
今は夜の時間帯だ。トイレはすぐそこだが、電気もついておらず、静まり返っている。
つまり、一人で行くのは怖い。
試しにソファーから体を起こしてトイレに向かうと、案の定彼女はトテトテとついてきた。そのまま扉の前まで誘導すると、ヴィヴィオは両手で扉を開け、中に入る。
しかし、何故かドアを閉めずに、こちらを泣きそうな目で見た。
「ザフィーラも」
「……わう?」
言葉の意味を捉えかねている私の首を、彼女は一生懸命に引っ張る。
……一緒に入れ、ということか――
やはり、幼い子を相手にするのは何かと勝手が違う。ここ数日で痛感していることを再認識しつつ、私はドアの内側に貼り付けてある可愛らしいウサギのポスターをしばらく見つめていた。
「――おわった」
用を足して手を洗った彼女は、無邪気に笑って私に声をかける。無事に済んだことに安堵しながら戻ると、ヴィヴィオは再び絵を描き始めた。お気に入りの積み木に目も向けない辺り、大した集中力だ。
そのまま、また穏やかな時間が続く――かと思いきや、第2のトラブルはすぐに訪れた。
軽快に画用紙をすべっていたはずの色鉛筆が、ぐりぐりと表現しづらい音をたてる。
「うー」
顔を向けると、紺色の鉛筆を不満そうに眺めているヴィヴィオが見えた。鉛筆の先がすっかりつぶれてしまっているところから察するに、使いすぎてしまったのだろう。では鉛筆削りは、と色鉛筆のセットに視線を移すと、そこには間の悪いことに鉛筆削りがない。誰かからのおさがりだからなのか、それともこの部屋でなくしたのか。ともあれ、このままでは紺の鉛筆は使えない。
ヴィヴィオは黒やら青やらの鉛筆を持って作業を再開するが、どうも気に入らないらしく、手を止めて再び唸った。
「……ん!」
妙案を思いついたのか、唇をへの字にしていた彼女は大きな声とともに立ち上がって、部屋隅の棚に向かう。ちょっとの間棚を見上げていた彼女は、いすを持ち出してその上に乗り、棚の上をごそごそと探り始める。
爪先立ちの不安定な姿勢で熱心にものを探す彼女は、自分の足がぷるぷると震えていることにも気づいていないようだった。
転ぶと危ないと思い、近づく途中――
「――あ」
ぐらりと、少女の体がいすごと傾いた。
(――っ!!!)
一足飛びに駆け寄って、彼女の下にもぐりこむ。
背中に衝撃。
そのまま、ヴィヴィオが私の上からずり落ちないうちに、体を伏せて少女を地面に降ろす。
慌てて彼女を見ると、呆然としたまま座り込んでいたヴィヴィオは、一気に瞳を潤ませて、盛大に泣き始めた。
お、あ、う。
こういう場合は、どうすればいいのだ!?
倒れる方向がよかったおかげで、周りには頭をぶつけそうな場所はない。受け止めることには成功したから、怪我はないはずだ。ということは、単に驚いているだけだろうか?
慰めるようにヴィヴィオの頬をなめてみるが、彼女は全く泣き止む様子がない。抱き上げてあやそうにも、今私が人型になったら、知らない男を見ることになるヴィヴィオは余計に怖がってしまうだろう。
あっという間に打つ手をなくした私は、内心で頭を抱えた。前足が届くのであれば、実際に抱えていただろう。くっ、アイナさん、助けてくださいっ!
「ヴィヴィオ、ヴィヴィオ?どうしたのっ!?」
私の念が通じたのか、部屋の扉が開くとともに、金髪の少女、フェイトが光の速さで目の前に現れた。瞬きをする間にヴィヴィオを抱き上げ、頭をなでる。
「どこか痛いの?それとも、何か怖いことがあった?」
フェイトの問いに、少女はしゃくりあげながら小さく首を振る。イエスともノーともとれる仕草に、軽く首を傾げてからこちらに念で話しかけてきた。
(えっと、ザフィーラ、何があったの?)
手短かに事情を話すと、彼女はヴィヴィオをあやしながらも、目を細めて私を見た。
(ありがとう、守ってくれて。でも――危ないことさせちゃだめだよ。もし、ヴィヴィオに何かあったら――)
フェイトの髪が、風もないのにゆらめいた、気がする。私の毛が逆立ったのは、本能が危険を感じ取ったのか、それとも見えない魔力が私を覆ったのか。いずれにしても、ヴィヴィオにかすり傷でも負わせたら、アフロどころではすみそうになかった。
私が硬直している間に、ヴィヴィオはあっさりと泣き止む。これが達人の技か――女性とはまこと恐るべし。
「怪我はないみたいだね。よかった。これからは、高いところにはのぼっちゃだめだよ?ヴィヴィオが怪我なんてしたら、なのはママもフェイトママも心配しちゃうから」
「――ん」
「あと、ザフィーラにもお礼を言わないとね」
フェイトの腕から降りたヴィヴィオは、私に向かって「ありがとー」と、深々とお辞儀をした。む、いや、こちらこそご丁寧にどうも。
「はい、ヴィヴィオが探してるのはこれかな?」
金髪の少女は、私の言動から幼い少女が何を探していたのか察していたらしい。金属のケース(新しい色鉛筆のセットのようだ)を手渡すと、ヴィヴィオは目を輝かせてフェイトに礼を言い、テーブルに向かって鉛筆を走らせ始めた。
「何を描いて――あ、上手だね」
二人の女性は、微笑み合った後、揃って私を見る。はて、何のことか。少なくともヴィヴィオに対して、私はやましいことはないつもりだが――しかし悲しいかな、自分がどこでどう思われているかを想像すると、清廉潔白だという私の主張は必ず通るとは言いがたい。
などとネガティブな思いをめぐらせている間に、私の疑問は解けることになる。
「できた」
拍手をするフェイトに見せた後、少女は得意げにこちらにソレを見せた。
紺色の、もわもわとした物体。
む、中央に丸があるな、これは目か?それから――この青い丸はどこかで見覚えがある。
数秒して、そのもこもこしたものが、ようやく意味をもつ物――いや、者に見えてきた。
(これは……私、か?)
「ザフィーラ」
私の考えに答えるかのように、ヴィヴィオは名前を呼ぶ。
くすぐったいような、暖かいような――何とも形容しがたい気分になって、私はのどを鳴らして鼻をひくつかせた。
「上手だよね、ザフィーラ。嬉しい?――ん、ザフィーラも嬉しいって、ヴィヴィオ」
年若い親子二人は、仲睦まじく笑いあう。
まもなく、なのはも帰ってきて、部屋の中に団らんの時間が訪れる。
私の口元は、場の雰囲気につられるように自然と緩んだ。
子守というのも――悪くない。
守りたいものが増えたことを、主はやてに伝えたら、彼女はどう答えるだろうか。きっと、喜んでくれるだろう。それを想像すると、目の前の光景がより大切なものに思えた。
>私はドアの内側に貼り付けてある可愛らしいウサギのポスターをしばらく見つめていた。
煮丸検事「動物の嗅覚、聴覚は人間のそれよりも格段に優れており、被告は幼女臭萌え〜とか、幼女の**萌え〜〜と内心抱いていたに違いありません。人間形態でなく何故、狭い密室で無駄に場所を食う駄犬フォルムだったのか?クールを装ってのムッツリなんです。証人がいます間違いありません」
狸員証人「被告は昔人のスカートの中をみたです〜」(日常(4)だったかな?)
>盛大に泣き始めた。
死愚南無検事「さらに被告は狸員証人だけで飽き足らず、被害者の少女Vも泣かせたのです。」(闇鍋の話)
>紺色の、もわもわとした物体。
この絵を先に見た婦妻は・・・嫉妬の炎をメラメラさせて・・・
>いずれにしても、ヴィヴィオにかすり傷でも負わせたら、アフロどころではすみそうになかった。
覇夜手裁判官「判決、被告犬ザフィーラは・・・・」
などと言う話が実はあるのですよね?ね?
続編希望です。