世の中には、間というものが存在する。これを逃すと、大抵のものはうまくいかない。
しかし往々にして、そういったものは自分では操れないのだから、困ったものだ。
現在、部屋の中に充満している沈黙に、私――盾の守護獣、ヴォルケンリッター・ザフィーラはどう対応するべきか迷っていた。
目の前には、主はやてとシャリオ・フィリーノがいる。ここは機動六課の部隊長室で、シャリオは主殿と同じ分隊の部下である以上、そのこと自体はまったくもって普通である。
が、しかし。二人のポーズが問題だった。
位置関係は、主殿がシャリオの前。そして後ろの少女は、前の上司の脇から腕を滑り込ませ、その胸部に触れている。
ご想像いただけるだろうか。無神経にもそんな場面に入り込んでしまった、私の境遇を。
主殿は顔を真っ赤にして硬直し、シャリオはきょとんとしながら私を見ている。……未だに手を主殿の胸からどけようとしないのは、恐るべき猛者だ。
「――失礼しました」
見ないフリ作戦。こういう時はスルーに限る。
「ちょ、ちょい待ちザフィーラ!あかん、ここはツッコミを入れるところや!」
動揺のせいか、いつもとは毛色の違う呼び止め方をする主殿。あきらめて振り返る私に対して「これはスキンシップなんよ」とか「仕事は楽しくやらないかん」とか饒舌に説明する彼女に、不覚にも苦笑しそうになった。普段から女性隊員に同様のことをして、なおかつ堂々としている(と聞いている)主殿が、何をそんなに慌てているのか。シャリオも同じ感想を持ったのか、眼鏡を触りながらにやりと笑い、口を開く。
「はやて部隊長が慌てるのって、とっても珍しいですねー。ひょっとして、受け手にまわるのは恥ずかしかったりします?」
若き通信主任の危険な発言に、主殿と私はそろって吹き出した。
「いや、えっと、その――そういうわけやなくてやな。殿方に見せるのはさすがによくない」
「え?私はザフィーラさんになら構いませんけど――」
なんでやねん。
思わず主の世界の言葉でツッコミそうになった私に対し、シャリオはにっこりと笑ってさらに爆弾を投下する。
「なんなら、触ってみます?」
私の前でしゃがむ彼女に、私はのけぞりそうになりながら、ようやく彼女の行動の意味に納得した。
彼女にとって、私は人ではなく犬なのだ。たとえ押し倒されようが胸を触られようが、さほど気にすることではないのだろう。
しかし、私は大いに気にする。人型になれる私にとっては、相手が人だろうが獣であろうが、女性の胸を戯れに触るなど、体裁が悪いにもほどがある。
「――遠慮しておく。一応私も男なのでな」
「あら、それは残念です。っと、つい長居しちゃいました。そろそろ戻りますね」
自分が主と同じ理由を出したため、話がループするかともと思ったが、シャリオはあっさりと引き下がり、一礼して部屋を出て行った。
扉が閉じる音がして、二重のため息が室内に漏れる。主殿は、私の顔を見て苦笑した。
「なかなかスリリングやったな」
「確かに驚きました」
淡々と答える私の台詞に、主はやてはくすくすと笑う。普段の調子が戻ってきたようだ。
「実際のところ――ザフィーラは触りたいとか思ったりするん?」
「――さて、よく分かりません」
主殿の冗談まじりの質問を、私はあいまいな返事でかわす。といっても、よく分からない、というのは本心でもあった。
「そか。実は、私もザフィーラになら揉んでもろおてもええと思うとるんやけど」
さらっと落とす爆弾発言に、私は地面に伏せた。
「……お戯れを」
脱力した私の声に、主は口に手を当てて笑った。家族として気を許しているという意味なのだろうが……それにしてもお人が悪い。
「そうやな。私も、そういうお色気より、こういうのの方がええ」
彼女はそう言って、私の首に手をまわす。毛皮の感触を楽しむように顔をうずめて、満足気に息を吐いた。
「不思議やな――こうすると、安心する」
それから、主殿は顔をあげて、淡く微笑んだ。
「惜しむらくは――私が大きくなってしもおたことやな。くるまって寝るのがまた格別なんやけど」
冗談めかして言う中に見え隠れする、寂しそうな表情。
それがどこから来るものか――
何とはなしに、グレアム氏や、十年前からずっと容姿の変わらないヴォルケンリッターの面々を思い浮かべて、私は目を閉じて、歯をかみしめた。
どんな理由があるにせよ私には推測しかできない。
そして――仮に完全に主の想いが理解できたとして、それを埋められるのかは自信がなかった。
守護獣を名乗っておきながら、なんとも情けない話だ。
それでも私は、主殿の心を慰めたくて――彼女の頬を、そっとなめた。
「ん……ふふ、くすぐったいよ、ザフィーラ」
身じろぎしながらも、彼女は嫌がるそぶりは見せない。ただ、私を優しく抱え込んだ。
「ありがとな――」
その言葉に応じるように、私は再び舌を伸ばし――
「失礼します。はやて部隊長、新人訓練の件ですが――」
繰り返して恐縮だが、世の中には、間というものが存在する。往々にしてそれは自分ではどうしようもなかったりするわけだが。
この時も、やはり私はそれに恵まれていなかった。
「……失礼しました」
「ちょっ、ヴィータもなん?放置プレイはあかんよ!?」
唐突に現れた少女は、主の制止も聞かずにそのまま部屋を去る。
今度こそ単なるスキンシップだったわけだし、見たのが他の面子だったら実際にそう思っただろうが――
今回は、相手が悪かった。
などと、悠長に思いをめぐらせている私に、現状を伝える恐ろしい声が届く。
(なぁ皆、ザフィーラがはやてにキスなんかしようとしてたんだが、どう思う?)
(――なんだと?――主はやてに迫るとは――そうか、ついに奴は淫獣に身をやつしたか)
(気持ちは分かるけど、親しき仲だからこそ、礼儀はあるわよねー)
(ずるいです、うらやましいですぅ!)
聞こえよがしに放たれるその念話に、私は冷や汗をかいた。
待てヴィータ、激しく誤解される言い回しをしていないか!?
焼死、圧死、凍死――不吉な単語が次々と頭の中を回る。
「うーん、やきもちやな。困った子やねぇ……抱っこぐらい、いつでもしたるのに」
主はやての呟きに、私は何度も頷いた。
是非早々にしてあげてください。できれば私が折檻フルコースを喰らう前に。
そう思いながらも、今も頭に届く念話に、私は本日最大のため息を(主に聞こえないようにこっそりと)ついて、床にはいつくばった。
「犬夜叉」の殺生丸のように巨大な犬になれば、はやてさんが大きくなっても、関係ないですよ。・・・・・ただ、八神二佐を人質にとる巨大な化け犬として、管理局の局員(八神ファミリー+なのは、フェイトも参戦)と戦いそうですけど・・・・・
>焼死、圧死、凍死
順にシグナム、ヴィータ、リィン。あれ?シャマルは?
減るほどの出番がないから、ここでも割愛?
あったらあったで、彼女には何が該当するのでしょう?やはり、中毒死(食中毒)ですかね?