「ふぎゃっ」
可愛らしい声で、しかし踏まれた猫のようなうめき声をあげながら、少女は地面に突っ伏した。
「すぐに体勢を整えろ。でないと――」
「わひゃあぁ!?」
すぐそばに突き立てられる魔力の棘から、彼女は転がって離れる。しかし立ち上がる前に、私は彼女を鎖で絡めとった。必死にもがくが、拘束を解除するには並大抵の魔力や腕力では不可能だ。
「これで撃墜だ」
ズドン、と目の前に魔力の柱を立てて宣言すると、少女は気の抜けたため息をついて、その場にへたり込んだ。
「ま、まいりましたぁ……」
ここは時空管理局機動六課。現在、私、盾の守護獣ことヴォルケンリッター・ザフィーラの勤務地である。我が主にして部隊長である八神はやての元、ロストロギアと定義している未確認物体を追うのが私たちの仕事だ。
先程まで私と戦っていた少女は、スバル・ナカジマ。鋭気溢れる新人だ。先程のやりとりは、午後の訓練前のわずかな時間に、たまたま外にいた(そして丁度仕事の合間だった)私を捕まえて、手合わせを申し出てきた結果である。これからみっちりしごかれるのだろうに、まったく元気なことだ。
「うう……ザフィーラさん堅すぎますよう」
「防御と補助が本領なのでな」
自分の攻撃が通らなかったことに落ち込む彼女だが、鼻歌まじりに防御できるようなものでは決してなかった。大体、あっさりと私の障壁を突破されてしまったら、守護獣の名がなく。
「今のままでも、不意をつかれた場合は危ないかもしれんな。まあ、焦る必要はない。お前たちはまだまだ強くなる」
「はいっ、頑張ります!」
私の言葉に、彼女は勢いよく頷いた。
「さて、相方が呼びに来たようだぞ」
私はあごで、こちらに走ってくる少女――ティアナ・ランスターを指した。訓練服の彼女は、私に会釈したあと、スバルに呆れたように口を開く。
「全く、先に行って何してるのかと思えば。無謀なことするんじゃないわよ。わざわざバリアジャケットまで着て」
「ごもっともです」
相棒の言葉にうなだれるスバルだったが、ふと私とティアナの顔を見比べて、彼女はニッと笑った。
「ザフィーラさん、もう一度だけ、お願いできますか?今度はティアナとのコンビで」
「構わんが――あまり飛ばすと、なのはやヴィータに叱られるぞ」
私の返事に同意見らしいティアナもスバルをたしなめる。しかし、拝み倒す彼女と時計を見比べて、深いため息をついた後にこちらを向いて一礼した。しかもご丁寧にバリアジャケットを装着して。その諦めの様子に自分と似たものを感じた……と言ったら、ティアナはショックを受けるだろうか。
「では――お願いします!」
スバルの挨拶と共に、彼女はこちらに走りこみ、ティアナは牽制の魔法を撃ち込んでくる。
迫り来る弾丸を障壁で弾き、続いて同じく弾丸のような速度で向かってきたリボルバーナックルを受け止める。魔力を強めて押し返すと、スバルは踏ん張りきれずに後ろによろめいた。
追撃をしようと踏み込んだ刹那、矢継ぎ早に弾幕が襲い掛かる。
ガードに意識が行った所で、体勢を立て直したスバルが私の側面から拳を繰り出す。互いの行動をよく把握し、敵に隙を与えない、いい連携だ。
アッパーのように地面から迫るそれを、私はシールドを全方位展開して止めた。
「っ、やっぱり、堅い――!」
表情をゆがめるスバルは、一瞬後、口を引き締めなおして腕に力を込めた。
まさか、カートリッジまで使わないだろうな――などと不安に思っていた矢先、ティアナが先程の位置にいないことに気がついた。
視線を周囲に走らせるが、彼女の位置を補足できない。
「モード2!」
その声は、私の横――つまり、スバルの隣から響いた。
何もないはずの空間から、鋭い魔力の刃が突き立てられる。
(幻術、か!)
ティアナの行動を把握した時には、既に先端がシールドに食い込んでいた。
二人がかりの一点攻撃に、私は慌てて障壁を集中させ、突破される寸前で持ちこたえる。
「これでも、駄目なの!?」
自分達の連携が不発に終わったことを悟ったティアナは、視線をスバルに送る。
離脱するつもりだろうが、もう遅い。二人ともまとめて捕獲――
「今だっ!奥義!」
そう叫んだスバルの左手が、素早く挙がる。
その動きを反射的に追った私は、必然的にソレも見た。
かなりタイトなティアナのスカートを器用にめくるスバルの手と、その先の、何と言うか……
ビキィッ
「――しまっ」
悲しいかな、いくらお約束と分かっていても集中力を乱してしまった私の障壁を、リボルバーナックルが破ろうとする。
「もらったぁ!」
下着に敗れる守護獣。
何とも不名誉なゴシップが私の頭をよぎった瞬間、鈍い音がする。
そして――
スバルは、吹き飛ばされた。
「いったぁああい!!」
「何すんのよこの馬鹿スバル!!!」
横っ面を殴り飛ばされて転げまわる彼女に、ティアナはブーツで追い討ちをかけた。ぐにぐにと彼女の背中を踏みつける。
「いやっ、色仕掛け作戦だよ!後ちょっとだったのにって痛い痛い!」
「んなアホな作戦、せめて自前でやりなさいよ!」
「だって、私パンツだし!」
「ずり下げるなり、ブラをずり上げるなりしなさい!」
……その辺にしておけ。ファンが聞いたら泣くぞ。いや、喜ぶのか?
ゴン。
「おふっ!?」
反応に困っている私の頭を、硬くて重たいものが殴る。
振り返ると、眉を吊り上げて半笑いのヴィータが、グラーフアイゼンを片手に仁王立ちしていた。
「あ、あはは……ヴィータ副隊長……」
スバルが、顔を引きつらせながら彼女の名を呼ぶ。ティアナにいたっては声もなく硬直している。上司に今の場面を見られた日には、無理もない。
「随分と元気そうじゃねーか。喜べ、今日は格別にたっぷりとしごいてやる」
「――はい」
副隊長の死刑宣告に、新人達は肩を落として頭を垂れた。頑張れ、若人。
一方、ヴィータは私に向かってにっこりと微笑んでみせる。その爽やかな笑顔が、青空の下にもかかわらず、何故だか非常に怖かった。
「ザフィーラ――お前は後でリンチな」
「……はい」
いつも通りのバイオレンスな発言だが、その意図を汲み取って素直に返事をする。まあ……自主練習ならまだしも、顧問のいないところで模擬戦というのは、上官としては不安だろう。
面倒かけさせるなとぶつぶつ呟く彼女に、私は何とはなしに口元を緩める。主はやてでいつも実感していることだが、身内の成長が見られるというのは、なかなかいいものだ。
「あ?何ニヤけてんだよ。はやてにも調教してもらうか?」
「勘弁してください」
……ところで、私の方は、成長どころか逆に年々弱くなっている(おもに立場が)気がする。私の年のせいか、それとも強い女性の多い六課だからなのか。
せめて、淫獣のレッテルだけは貼られないようにせねばなるまい。
私は、我ながら訳の分からない後ろ向きな決意と共に、尻尾を一振りした。
ちょっと気になったんですけど、、
「バリアジャケット」ではなく「バトルジャケット」になってるのは何故ですか?